ロシア ウクライナ軍事侵攻 “80以上の施設攻撃”ロシア国防省
2022年2月25日 NHK
ロシアは24日、ウクライナに対する軍事侵攻に踏み切り、ロシア国防省はこれまでに11の空港を含むウクライナ軍の80以上の施設を攻撃したと発表しました。
プーチン大統領は「ほかに選択肢はなかった」と述べ、軍事侵攻を正当化しました。
ロシアによる軍事侵攻は24日、ウクライナの各地で始まり、ロシア国防省はこれまでに11の空港を含むウクライナ軍の83の地上施設を攻撃したと発表しました。
ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は、あくまでも軍事施設を対象にした攻撃であり、民間人に対する脅威はないと主張しました。
一方、ウクライナ軍参謀本部によりますと、首都キエフの郊外にある軍事施設が巡航ミサイルの攻撃を受けたほか、ウクライナ軍の東部の拠点となっているクラマトルスクや、南部にある軍事施設など各地で攻撃が続いたということです。
ゼレンスキー大統領は国民に向けて演説し、一連の攻撃でこれまでにウクライナ人137人が死亡し、316人がけがをしていると明らかにしました。
また、ウクライナ大統領府の幹部は地元メディアに対して、国内にあるチェルノブイリ原子力発電所が激しい戦闘の末、ロシア軍の部隊に占拠されたとしています。
敷地内にある放射性廃棄物の貯蔵施設の状態は不明だということです。
さらに、ウクライナ東部の親ロシア派の幹部は、ウクライナ政府が統治する地域まで侵攻し、2つの州の全域を掌握したいとする考えを示しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアによる軍事侵攻を強く非難したうえで、ロシアとの国交の断絶を表明しました。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は24日、国内の経済界との会合で「いま起きていることはすべて必死の手段だ。ほかに選択肢はなかった」と述べ、軍事侵攻を正当化しました。
ロシア軍は、欧米側の警告を無視してウクライナ各地で軍事侵攻に踏み切り、国際社会からの非難が強まっています。
被害現場の様子は
ロイター通信は、ロシア軍が攻撃を行ったとされる、ウクライナ東部、ハリコフ州での複数の被害現場の様子を伝えています。
このうち、州都のハリコフにある建物の室内を映した映像では、部屋の屋根や壁が大きく崩れ、破片が床に散乱して足の踏み場もない状態になっています。
また、州内の別の都市のチュグエフにあるマンションは、壁一面の窓ガラスのほとんどが割れてなくなり、ベランダの部分がめちゃくちゃに壊れ、がれきが地面に散乱しています。
近くには、毛布にくるまって不安そうに電話をかける女性や、壊れたマンションの前で立ちすくむ人たちの姿もありました。
一方、親ロシア派が事実上支配している東部のドネツク州でも被害が出ていて、避難を余儀なくされる住民からは不安やとまどいの声が聞かれました。
住民の女性たちは「自分の家を離れなければならない。いったい何が起きているのか」とか「1人なのにどこに逃げればいいの」などと半ば叫ぶように話していました。
防空ごうとして使用か 地下鉄の駅に多数の市民集まる
ウクライナ第2の都市、ハリコフでロイター通信が24日に撮影した映像では、多くの市民が薄暗い地下鉄の駅の構内で硬い床の上で隙間なく座ったり、身を寄せ合ったりしている様子が確認できます。
小さな子どもを連れて避難して来た人や床の上で横になって休む人の姿もみられます。
駅に避難してきた男性は「軍は私たちに地下鉄の駅に集まるよう呼びかけている。ロシア軍が怖い」と話していました。
海外メディアによりますと、首都のキエフでも地下鉄の駅が防空ごうとして使われ、大勢の人が集まった場所もあるということです。
ウクライナと国境接するポーランドに避難の人々
ウクライナと国境を接するポーランドには車や列車などでウクライナの人々が逃れ始めています。
このうちポーランド南東部の町メディカにある国境では、24日、仕事などでの通常の往来に加え、ウクライナ側から歩いて国境を渡る人たちが目立ち、ベビーカーを押す母親や、スーツケースを引く家族の姿が見られました。
また、国境に近い都市、プシェミシルの駅では、予定より4時間ほど遅れてウクライナの首都キエフからの列車が到着しました。
ホームにはポーランドの国境警備隊や警察が出動し、ものものしい雰囲気の中、乗客は足早に駅をあとにしていました。
ポーランド政府は、ウクライナから多くの避難民を受け入れる用意があるとしていて、国境近くのスポーツ施設には、避難所が設けられ、地元の消防隊員たちが、マットレスを運び込んで準備を進めていました。
ウクライナ側発表の被害状況
ウクライナ大統領府の補佐官は24日の会見で、ロシア軍の侵攻開始以来、ウクライナ軍の兵士40人以上が死亡し、数十人が負傷したと発表しました。
現地メディアによりますと、補佐官は、被害は主に空爆やミサイル攻撃によるものだとしたうえで「一定の消耗はある」としながらも、人員、弾薬、戦闘能力のいずれにも深刻な影響は出ていないという見方を示しました。
また、ロイター通信は、地元当局の話として、黒海沿岸の港湾都市オデッサ周辺では、ミサイル攻撃によって市民など少なくとも18人が死亡したと伝えています。
さらに、ウクライナ警察の発表として24日にロシア側から203回にわたって攻撃を受け、領土のほぼ全域で戦闘が繰り広げられていると伝えています。
ウクライナのクレバ外相は「ロシアの侵攻は東部にとどまらず、多方面から全面的な攻撃を受けている。ウクライナは防衛を続ける」とSNSに投稿し、国内全土に戦闘が広がっているとしました。
また、ウクライナ軍参謀本部はSNSで24日、ウクライナ軍が東部のルガンスク州でロシア軍の兵士およそ50人を殺害したとしました。
米 国防総省「大規模な軍事侵攻の初期段階にある」
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻についてアメリカ国防総省の高官は24日「大規模な軍事侵攻の初期段階にある」と指摘し、首都キエフに侵攻し、ウクライナ政府を崩壊させることを意図しているという見方を示しました。
具体的には、ロシア軍は人口が集中する地域を奪取するため、ウクライナ北部と国境を接するベラルーシから首都キエフに向かうルートなど、主に3つのルートで前進しているとしています。
また、ロシア軍の最初の攻撃では短距離弾道ミサイルをはじめ、中距離弾道ミサイルや巡航ミサイルなど推定で100発以上が発射されたほか、爆撃機などおよそ75機が使われたとしました。
これらの攻撃は弾薬庫や飛行場など軍事施設を主な標的としていて、民間人を含む死傷者の数は分からないとしています。
国防総省の高官は「ロシアは首都キエフに向かっていて、われわれの分析では彼らはウクライナ政府を崩壊させ、自分たちの統治方法を確立するつもりだと考えられる」と指摘しました。
この高官は、ウクライナに軍事支援などを続ける方法を探るとしましたが、ウクライナ国内にアメリカ軍の部隊を派遣することはないと重ねて強調しました。
ゼレンスキー大統領「新たな鉄のカーテンが下りた」
ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、国民に向けて演説を行いました。
この中でゼレンスキー大統領は「私たちがいま耳にしているのは、ロケットの爆発音や戦闘の音、軍用機のごう音だけではない。新たな鉄のカーテンが下りてロシアを文明世界から切り離す音だ。このカーテンを私たちの国に下ろすのではなくロシア側にとどめなければならない」と述べ、東西冷戦時の「鉄のカーテン」という表現を用いてロシアを非難しました。
一方、多くのロシア市民も今回の侵攻に衝撃を受け、中にはSNSで反対を表明している人もいるとして、こうした人々にプーチン大統領に直接、訴えかけてほしいと呼びかけました。
そしてウクライナ国民に対しては「祖国防衛に協力し、軍や国境を守る部隊に参加してほしい。敵にさらなる侵攻を許すかどうかは私たちの対応にかかっている。献血などを行ってボランティアや医療関係者も助けてほしい」と述べ、国民に結束と協力を呼びかけました。
さらに世界の政治指導者に向け「自由世界を率いるあなたたちがいま私たちに手を差し伸べなければ、あすはあなたたちが戦禍に見舞われるだろう」と述べ、ウクライナへの支援を呼びかけました。
プーチン大統領 各国首脳と相次ぎ会談
ロシアのプーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻を開始したあとの24日、モスクワを訪問中のパキスタンのカーン首相と会談しました。
パキスタン首相府によりますと、この会談は、アフガニスタンの人道支援などを話し合うためもともと予定されていたものだということです。
このなかで、カーン首相はウクライナの情勢について、遺憾の意を表し、外交によって軍事衝突を回避するよう望むとプーチン大統領に直接伝えたということですが、会談でのプーチン大統領の発言はこれまでのところ、伝えられていません。
また、インド政府によりますと、24日夜、モディ首相とロシアのプーチン大統領が電話で会談しました。この中でモディ首相は、ロシアとNATO=北大西洋条約機構の間の相違は真摯(しんし)な対話によってのみ解決できると指摘したうえで、暴力の即時停止と、外交の場に戻るためにすべての当事者が一致して取り組むことを求めたということです。一方、インド外務省のシュリングラ次官は24日夜の会見で、ロシアに対する制裁について「アメリカやEU、オーストラリア、日本、イギリスなどが追加的な制裁を科すとしているが、事態は刻々と変化しており、これらの措置が自国の利益にどのような影響を与えるのか慎重に見極める必要がある」と述べ、直ちに制裁などの措置をとる考えはないことを明らかにしました。インドはロシアと長年友好関係にあり、特に軍事面の結び付きが強いことで知られています。
イラン大統領府は、24日、ライシ大統領が、ロシアのプーチン大統領と電話で会談したと発表しました。この中でライシ大統領は「NATO=北大西洋条約機構の東方への拡大は、さまざまな地域の安全や安定に対する深刻な脅威だ」と述べて、ウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったロシアの立場に理解を示しました。そのうえで「この事態があらゆる国民や地域にとって恩恵がある形で終わることを望む」と述べたということです。これに対し、プーチン大統領は「現状起きていることは、ロシアの安全保障を脅かす西側の行為に対する正当な対応だ」と応じたとしています。イランは敵対するアメリカに対し、制裁の解除などを求めて間接的な協議を続けていますが、このところ、同じようにアメリカとの対立を深めるロシアとの関係を強化する姿勢を鮮明にしています。
仏 マクロン大統領 プーチン大統領と電話会談“軍事作戦停止を”
フランスのマクロン大統領は24日、ロシアのプーチン大統領と電話で会談しました。
フランス大統領府によりますと、マクロン大統領は、今回の軍事作戦によってロシアは大規模な制裁にさらされているとして、プーチン大統領に対しウクライナでの作戦を直ちにやめるよう求めたということです。
ただ、これに対しプーチン氏がどう答えたかなど、詳しいやり取りの内容は明らかにされていません。
米各地でロシア軍事侵攻に抗議のデモ
アメリカでロシアの軍事侵攻に抗議するデモが各地で行われました。
このうちニューヨークでは、ウクライナ出身の人など数百人が集まり、「戦争反対」や「ウクライナはロシアの一部ではない」と書かれたプラカードを掲げながら、ウクライナの国歌を歌ったり「今すぐロシアを止めろ」などと声を上げたりしていました。
13歳の息子と一緒に参加したウクライナ出身の女性は、「自分と夫が生まれた場所が攻撃されているのでここに来ました。ウクライナで何が起こっているのか、アメリカや世界の人々に知ってもらいたいです。世界は再び団結する必要があります」と話していました。
また、家族や親戚がウクライナに住んでいるという女性は「この2、3週間、希望を持っていましたが、実際にこんなことが起こり、ショックで信じられません。ウクライナ西部にいる父方の親戚からは連絡がないので私たちはただここで祈るしかありません」と話していました。
仏 英でロシアへの抗議デモ
ロシアの軍事侵攻に対して、フランスのパリにあるロシア大使館の前では24日、ウクライナ出身の人たちなど数百人が集まり、ウクライナの国旗を掲げながら「プーチンを止めろ、戦争をやめろ」などと、抗議の声を上げました。
幼い子ども2人を連れて参加した女性は、ウクライナに住む家族とのチャットで砲撃が始まったことを知ったと話しました。
女性は「首都キエフに住む妹は朝4時から砲撃の音が聞こえて眠れないと書き込んでいて、地方に暮らす父が迎えに行くそうです。この恐怖と惨事を止めるために、世界の支援が必要です。ウクライナだけでは無理です」と訴えていました。
また、キエフ出身の留学生の男性は現地の家族と1時間おきに電話で連絡をとって無事を確認しているということで「砲撃に備えて両親や兄の子どもたちが避難できるように地下室を準備しているそうです。食料の心配はまだありませんが、少し混乱があるようで、多くの人が肉などを買おうとしているそうです」と話していました。
また、イギリスのロンドンでも、首相官邸前に、ウクライナ出身の人など数百人が集まり、プーチン大統領への抗議の声をあげるとともに、イギリス政府に対し、ロシアへの厳しい制裁を求めました。
参加した女性は「ロシアを国際的な決済システムから遮断するなど、厳しい制裁を科してほしい」と話し、別の男性は「ロシアは国際法を完全に無視し、民間人を殺害している。ウクライナの友人たちは、兵士として戦い、何の理由もないのに死んでいる」と怒りをあらわにしていました。
ロシア国内でも軍事侵攻に反対するデモ 約1400人が拘束
ロシアのウクライナに対する軍事侵攻に反対するデモはロシア国内でも行われ、首都モスクワでは24日、多くの市民が集まって「戦争はいらない」などと声を上げながら、デモ行進しました。
フランスのAFP通信によりますと、このデモにはおよそ2000人が参加したということで、参加した女性は「対立はどちらの側からも暴力的な行為なしに平和的に解決されなければなりません」と話していました。
参加した人たちは静かに行進を続けていましたが、一部の人は警察に拘束され、次々に車両に乗せられていました。
ロシアではこの日、モスクワのほか、第2の都市サンクトペテルブルクなど各地で抗議デモが行われましたが、人権監視団体によりますと、警察に拘束された人は国内の51の都市で合わせておよそ1400人に上るということです。
国連 グテーレス事務総長「軍事行動を中止し直ちに撤退を」
国連のグテーレス事務総長は24日、記者会見し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「間違っている。国連憲章に反している。受け入れられない」と述べ、ロシアのプーチン大統領に対して軍事行動を中止し軍を直ちに撤退させるよう求めました。
そのうえで「罪のない人たちが常に最も大きな代償を払うことになる。民間人の保護を最優先にしなければならない」と述べ、国連の基金から2000万ドル、日本円にして23億円余りを拠出して、ウクライナに緊急人道支援を行うことを明らかにしました。
ノーベル平和賞受賞のロシアの新聞編集長 軍事侵攻に反対の声
ウクライナへの軍事侵攻についてロシアの主要メディアが政権の意向に沿ってロシアの行動を正当化する報道をしている中、反対の声を上げる記者たちもいます。
このうち、プーチン政権の強権的な姿勢を批判する報道を貫き、去年、ノーベル平和賞を受賞したロシアの新聞の編集長、ドミトリー・ムラートフ氏は、24日、新聞社の公式サイトに動画のメッセージを掲載しました。
この中でムラートフ氏は「私たちは悲しみの中にある。わが国はプーチン大統領の命令で、ウクライナとの戦争を始めてしまった。止める者は誰もいない。私は悲しいとともに、恥ずかしいと感じる」と、心境を語りました。
そして「私たちはウクライナを敵国と認めず、ウクライナ語を敵国語としない」と述べたうえで今後、ムラートフ氏の新聞社ではウクライナ語とロシア語の2か国語で記事を執筆し、ウクライナの人たちに向けてもメッセージを発信していくことを明らかにしました。
さらに「最後にもう1つ。この地球上の命を救えるのはロシア人の反戦運動だけだ」とし、ロシア側から戦争反対の声を上げ続けることの重要性を訴えました。
専門家「ゼレンスキー大統領 非常に厳しい局面」
ウクライナ政治が専門で神戸学院大学の岡部芳彦教授は「汚職撲滅やクリミア半島の返還を訴え国民的な人気を得てきたゼレンスキー大統領がロシアに歩み寄る選択肢は考えられず、非常に厳しい局面に立たされている」と指摘しています。
ゼレンスキー大統領は、コメディアンや俳優として活躍した元人気タレントで、高校教師が大統領に転身し、次々と政治改革を進めていくテレビドラマ「国民のしもべ」で主役を演じ、41歳だった2019年に、実際に大統領選挙で当選しました。
クリーンなイメージで汚職撲滅やクリミア半島の返還を訴え、国民的な人気を集め、安定した政権運営を進めてきたということです。
岡部教授はゼレンスキー大統領が置かれている状況について「政府は今のところ機能していると思うが情報が錯そうし、指揮系統が維持されているかはわかりにくい。部分的な侵攻であれば何とか持ちこたえられたかもしれないがここまで大規模になるとロシアに太刀打ちする手段はない。欧州路線を明確にしてきただけにロシアに歩み寄る選択肢は考えられず、引き続き国際社会に支援を訴えていく形になるが非常に厳しい局面に立たされている」と指摘しています。
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