ウクライナ「報道」でも目立つ、ワイドショーでの適当で無責任なコメントたち
2022年03月17日
Newsweek
<良い報道には現地の取材だけでなく解説や分析も必要だが、「タレント」の能力を超えた問題についての発言が「報道」と受け取られる危険性を認識すべきだ>
ニュース番組でもない、娯楽番組でもない、ハイブリッドな日本のテレビのワイドショーを初めて見たときにはとてもびっくりした。
なぜなら、多くのレギュラー出演者(タレントや弁護士、大学の教授など)はどんなニュースであっても、どんなテーマであっても迷いなくしゃべる。
表現の自由は大事だから、誰が何についても、自分の意見が言える環境を確保するのは重要なことだ。ただワイドショーに出演するタレントなどは自分の意見を述べることだけでなく、どこかの状況を説明したり何らかの事件の原因について仮説を立てたりすること、つまりほぼ事実として説明する役割を担っている。
話すのがうまく影響力のある人が説明すると、その内容を信じてしまう視聴者がいる。
テレビ以外の媒体であまり情報を確認しない視聴者は特に、そういった影響力のある人の発言に自分の意見が大きく左右されてしまうリスクがある。
比較的軽いニュースについての仮説なら、「仕方がない。ワイドショーはそんなもんだ!」と思えるかもしれないけれど、重大なニュースについての仮説や分析では非常に危険だ。
例を取り上げよう。2月28日にフジテレビの番組『めざまし8』にも、日本テレビの番組『情報ライブ ミヤネ屋』にも出演した橋下徹元大阪府知事は、ウクライナ情勢についてさまざまなコメントをした。「一体、橋下氏はどのような知識をもって、そんな状況分析ができるのか?」と私は驚いた。
しかも一部のタブロイド紙は、そのコメントを中心にした記事を掲載した。
アメリカやEUの首脳たちや専門家よりも、日本にいる橋下氏のほうが今回の戦争の原因や解決方法を知っているはずがないし、彼は首脳や専門家に提言する立場でもないのに。
単なる一人の「意見」を超えた扱い
もちろん、彼が自分の意見を言うのは自由だ。ただ、それは解説者ではなく、一人の日本人の意見にすぎないものとして扱われるべきだ。
橋下氏の「僕は知っている」といった態度がマスコミに評価されているのは、困ったことだと思う。ウクライナでの戦争は数千万人の命に関わるものだ。権力者だけでなく、テレビに出演する人々も無責任な発言をしないように注意すべき時期だろう。
残念なことにワイドショーにとっては、自分たちで取材をするよりも、話がうまいコメンテーターをスタジオに呼んで生放送するほうがお金がかからない。
しかも、エンターテインメントの雰囲気があって見やすい番組だから、視聴者が多い。
日本に限らず、アメリカでもフランスでも同じような傾向はある。ただ、日本の場合はより深刻だと思う。
現在、ウクライナの戦場や危険な場所に記者を派遣することがほぼ不可能だからだ。
例えば日本政府は「どのような目的であれ、ウクライナへの渡航はやめてください」と言う。
報道の自由の観点からも日本のメディアの独立性の観点からも、望ましくない状況だ。だが、マスコミは政府の立場に反論をしない。
どんな話題であっても現地の取材だけで良い報道ができるわけではなく、確かに解説や分析も必要だ。そこで重要なのは、コメンテーターを選ぶ基準だろう。
必要な知識や能力、経験を本当に持っている人であるかが第一条件だ。
人気のタレントが出れば視聴率が上がるのは事実だが、その人の知識と能力を超えた問題についてコメントしようとすれば、無責任な発言につながる。
テレビ以外で、特に若者が見るインターネット番組も同じような傾向が強い。彼らが取材に基づいたものより、適当なコメントを「報道」だと思うようになるのではないかと心配だ。
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