財務省、防衛費増を牽制

 財務省、防衛費増を牽制

2022/4/20 

産経


財務省は20日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会を開き、政府が検討を進める安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」などの改定に向けた課題を議論した。経済や財政の構造強化は防衛力を充実させる観点からも重要だとの見解で一致。自民党内で広がる予算増額論を牽制(けんせい)した。


財務省は「国民の生活や経済、金融の安定があってこそ防衛力が発揮できる」とし、指針などの見直しの議論では有事に備えた経済、財政の在り方も点検する必要があると主張した。


ウクライナ侵攻で日本の野党は「防衛費」と「原発再稼働」というタブーにどこまで迫れるか

髙橋 洋一経済学者


防衛費増額に消極的なのは「戦争愛好者」?

安倍元首相は4月3日、防衛費をGDP2%まで増額すべきと主張した。

もっとも自民党は、昨年の衆院選での公約でも「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、防衛関係費の増額を目指します」と明かしている。


一方、連立している公明党山口代表は「防衛費だけ突出 妥当ではない」と慎重な発言をしている。


共産党は、もとより防衛予算増額を強く反対している。


国際関係論を現実主義から見る立場は、かねてから防衛費増額を主張してきた。

それに対して理想主義者は、防衛費増額より経済依存度を高めることや国際機関の強化を主張してきた。

今回のウクライナ侵攻により、理想主義者の言い分は説得力がなくなったともいわれる。

本コラムの読者ならご存じだろうが、筆者は、米国留学時代、戦争確率を減少される要因を歴史データから定量的に分析した。

そのエッセンスは、2015年7月20日付け本コラム「集団的自衛権巡る愚論に終止符を打つ! 戦争を防ぐための「平和の五要件」を教えよう」にまとめている。


それを復習すれば、

(1)防衛費、

(2)同盟、

(3)相手国の民主主義、

(4)経済依存度、

(5)国際機関参加のいずれも戦争確率を左右する。

ただし、強い影響は(1)〜(3)であり、(4)、(5)はそれほど強くかなった。






今回のウクライナの事例は、理想主義者が負けたという見方もあるがそうでない。今回は(2)と(3)が決定的だったので、従来の定量分析を否定しているわけでなく、むしろ肯定している。


なお、こうした定量分析からすれば、同盟強化を否定する安保法制に反対していた共産党や旧民主党は、戦争愛好者ということになってしまう。


同時に、防衛費増額に消極的な公明党、共産党、立憲民主党も、立派な戦争愛好者になってしまう。


日本を取り巻く状況を考えると、周辺国には、非民主主義国として中国、北朝鮮、ロシアがあるから、(3)からみれば日本が戦争に巻き込まれる確率は無視できない。

一方、日米安保条約があり、日本はアメリカと同盟関係にあるので、(2)から一定の戦争確率は低減されている。


しかし、三つの周辺国は核保有国であり、軍事費支出も高く、(1)からみると日本への影響はある。


そこで、日本の防衛費が議論になってくるのは、当然である。


ドイツの左派政権も「覚醒」した

世界各国の軍事費はどうなっているのか。ストックホルム国際平和研究所の軍事費GDP比のデータが有名だが、北朝鮮がない。オーストラリアの経済平和研究所のデータを加えて150ヵ国のランキングを見てみよう。


軍事費GDP比

1位は北朝鮮の24.0%。周辺国を見ると、

ロシア4.3%(11位)、

韓国2.8%(29位)、

台湾1.9%(55位)、

中国1.7%(67位)。

G7では、

アメリカ3.7%(17位)、

イギリス2.2%(42位)、

フランス2.1%(48位)、

イタリア1.6%(78位)、

カナダ1.4%(88位)、

ドイツ1.4%(91位)。

クアッドのインド2.9%(28位)、

オーストラリア2.1%(49位)。

日本は1.0%

で、150ヵ国中121位。他の国と比べると見劣りがする。



現在のドイツは、社会民主党、緑の党、自由民主党の連立政権であるが、社会民主党と緑の党はバリバリの左翼なので、左派政権である。しかし、ウクライナの実情に「覚醒」して、GDP比2%を目指すという。


軍事の電子化、ハイテク化、ドローンなどの無人化が世界の流れであるが、それにキャッチアップしなければならない。近代戦はハイブリッド戦とも言われるので、情報戦略も必要だ。また、日本の領土は多くの島があるので、その防衛にも穴があってはいけない。


日本は専守防衛といわれるが、抑止力のためには核共有の議論を避けてはならず、相手国が攻撃を思い止まるような相手国への反撃力を持つべきだ。


いずれも十分な防衛費がないと話にならない。来年度予算を待たずに今年度補正から手当てすべきだ。


日本の左派政党は、いつになったら「覚醒」するのだろうか。


ウクライナで変わった「脱原発」の流れ

彼らのトンチンカンは、防衛費だけではない。エネルギー政策もズレている。


今回のウクライナ侵攻では、ロシアのガスに頼っている欧州、シェールガスやシェールオイルの開発に消極的な米国、原発再稼働が進まない日本など各国のエネルギー政策の急所が突かれた。


エネルギー政策は、多種多様なエネルギー源をミックスし、安定的な供給をできるだけ安いコストで行うことが目標になる。その際、安全保障の観点から、一定の国内供給を確保するのがいい。国内供給は安定的な供給になるが、国内資源がないことやコストの面で不利になることもあるので、多くの国では海外供給にも頼らざるを得ない。


エネルギー自給率を2018年のOECD35ヵ国でみると、

アメリカ97.7%(5位)、

イギリス70.4%(11位)、

フランス55.1%(16位)、

ドイツ37.4%(22位)、

日本11.8%(34位)

となっている。


このエネルギー政策は、この10年くらいで大きな外部環境の変化に晒されている。

2011年の東日本大震災で、福島第一原発が大事故を起こしたので、ドイツでは脱原発の動きが進み、日本でも原発再稼働は簡単にできなくなっている。


そのうえ脱炭素化の流れも、各国のエネルギー政策の長期的な動向に影響を与えている。

各国において、脱石炭火力の動きが進むとともに、短期的には天然ガス火力へのシフト、さらに中期的には再生エネルギーへのシフトが起こっている。エネルギー自給率の低いドイツではロシアからの天然ガスへの依存が大きい。


しかしここにきて、ウクライナ問題が、欧州各国のエネルギー政策を再び大転換させている。さすがに、今年中にすべての原発の廃炉を決めているドイツは稼働延長できなかったが、イギリスその他の国では原発増設の動きになっている。


アメリカも、表向き環境重視の旗は降ろせないが、じわじわとシェールの増産をしている。世界的なエネルギー不足を補うとともに、エネルギー価格の上昇を和らげることになるだろう。


では、日本は原発再稼働に舵が切れるか。


本来であれば、野党が原発再稼働を言い出せばいいものを、これまでの脱原発を主導してきたので、身動きがとれない。エネルギー問題でも、野党は覚醒したほうがいいのだ。


「防衛費を上げるな」と言う人は数量的な分析では「戦争愛好者」 ~高橋洋一が指摘

4/13(水) 

ニッポン放送


数量政策学者の高橋洋一が4月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日本の防衛費について解説した。


NATOの2%に比べ、日本の防衛費はその半分

陸上自衛隊が敵の電磁波情報の収集・分析や電波による通信妨害を行う「電子作戦隊」を発足。新編された電子作戦隊=2022年3月28日午前10時28分、陸上自衛隊朝霞駐屯地(代表撮影) 写真提供:産経新聞社


岸信夫防衛相は4月5日の記者会見で、北大西洋条約機構(NATO)が防衛支出の指標として加盟国に適用する対GDP比2%について、「指標として一定の意味がある」との考えを示した。


飯田)防衛費についてですが。


高橋)世界のランキングを見ても、日本の防衛費のGDP比は低いです。防衛費の低い国は小さい島や小国などが多い。先進国は高く、NATOの目標は2%です。それに比べると、日本はその半分です。


飯田)そうですね。


高橋)いま話題になっているロシアやウクライナは3~4%ですから、高いのです。高くしているところは戦争が起きがちなのですが、高めていかないと、周りの国が軍拡していってしまうのです。特に北朝鮮は24%で、世界トップクラスです。


飯田)北朝鮮は。


高橋)軍事費がアンバランスだと戦争確率が高まるのです。「防衛費を上げるのはけしからん」という人は、数量的な分析をすると「戦争愛好者」になってしまうのです。


飯田)防衛費を上げることに反対する人は。


高橋)「戦争確率を低める人」と「高める人」に分けると、「防衛費を低くする人」というのは戦争愛好者になってしまいます。数量的に言えば、それは当然のことなのですが、日本で言うと逆に捉えられてしまいます。


防衛費を今後GDP比2%以上まで上げることを決めたドイツ

飯田)今回のウクライナ情勢を受けて、最も防衛費に反応したのはドイツだということです。


高橋)メルケルさんは中道右派でしたが、いまは社会民主党と緑の党が中心なので、ドイツはまったくの左派政権です。ドイツの防衛費はGDP比で1.5%程度なのですが、当初は1.2%程度まで下げるという予定でした。それを逆に今後、2%以上まで上げてしまうということなので、ドイツは覚醒してしまいましたね。よく「ドイツを見習え」と言われますが、今回、言われないのはなぜでしょう。


飯田)「そのくらい備えておかねばならない」という、大きなインパクトがあったということですよね。


高橋)ポーランドまで来たら、「次はドイツか」という感じになりますからね。


日本がAUKUSに参加する可能性も

飯田)産経新聞に、AUKUSについての記事が掲載されています。


~『産経新聞』2022年4月12日配信記事 より


高橋)この報道が本当であれば、すごいなと思います。「バイデン大統領が来日か」という報道もありますが、そのときに確認できますよね。


飯田)「5月24日で調整」とあります。クアッド……インド、オーストラリア、アメリカ、日本の枠組みですが、ここで確かにバイデン大統領は日本に来ますね。


高橋)そのときにすぐに言ってくれるはずだと思います。あくまでも希望的観測であり、他の報道もまだ出ていないので、現時点ではよくわかりませんが、もしそうなのであれば、とてもいいことだと思います。


飯田)日本がAUKUSに参加することになれば。


高橋)重要機密という点で、AUKUSは原子力潜水艦の協定が中心になっているはずなので、日本もそこに入れるのであればいいことですし、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の話になると、核抑止力が格段に高まります。


日本がAUKUSに参加するためには情報面を強化しなくてはならない

飯田)一方、ツイッターなどで指摘されていますが、「そうは言っても日本から情報が漏れてしまうことが懸念されて、結局入れないのではないか」とも言われています。


高橋)それが最も懸念されているところです。私もこの報道を見たときに、「情報面は大丈夫か」と思いました。日本は第1次安倍政権のときに「特定秘密保護法」を一応はつくりました。しかし、海外から「これではダメではないか」と言われかねない代物なのです。日本は「情報が漏れてしまう」という理由で、ファイブアイズに入れないのですよ。そのために何か法律をつくることが条件になるのではないかと思います。それを機に秘密保護法の法律をきちんとつくればいいのです。


飯田)同盟が戦争の確率を低める可能性はありますか?


高橋)もちろんです。防衛費と同盟、もう1つは相手国が非民主主義国かどうかということで、大体は決まります。日本の周りですと、北朝鮮とロシアと中国は非民主主義国なので「戦争確率が高い」という状況なのです。それぞれが軍拡しているので、ますます高くなっています。それを抑えるには、日米同盟しかない。ですので、安保法制のときに反対した人も、実は戦争愛好者になってしまうのです。

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