「チェチェン兵に強姦され、殺された…」帰らぬ飼い主を玄関先で待ち続ける"ウクライナの忠犬ハチ公”を襲った悲劇の瞬間

 「チェチェン兵に強姦され、殺された…」帰らぬ飼い主を玄関先で待ち続ける"ウクライナの忠犬ハチ公”を襲った悲劇の瞬間

4/13(水)

文春オンライン

 4月12日、不肖・宮嶋は首都キーウから西へ80キロほど離れた街マカリフへ。そこで見たのは「ウクライナの忠犬ハチ公」と言われる、1匹の秋田犬の姿だった。


「ウクライナの忠犬ハチ公」と紹介された秋田犬リーニア


 不肖・宮嶋これほどカメラマンの無力、無能を痛感したことはなかったであろう。ついさっきである。


「ペンは剣より強いか知らんがカメラはペンより絶対強い」


 なんぞおこがましいことこいた自分がはずかしい。あれほど日本の大新聞、大テレビ局の弱気を嘲いながら、おのれは犬一匹連れ帰る勇気も持ち合わせていないのである。


 ここから先は犬好きのかたは読まないほうがいいかもしれない。「ウクライナの忠犬ハチ公」とインターネットで紹介された、あまりに残酷、そして哀れな本当の話である。これは取材しないほうがよかった。なんでほいほいマカリフまででかけてしもうたんであろう。不肖・宮嶋、後悔至極である。


 この犬の名は「リーニア」メス、8歳、血統は秋田犬である。飼い主はキーウから西80キロあたりに位置するマカリフという小さな町に住む、もとい住んでいた主婦、タチアナさん。母上はロシア人でご主人を2年前に新型コロナで亡くされたばかりの未亡人でもある。


 そのマカリフ市中心部近くのタチアナさん宅に先月16日、突如町に侵攻してきたロシア軍のなかでも最も性質が悪く残忍だといわれるチェチェン部隊兵士が装甲車ごと自宅塀を破り、侵入。悲鳴をあげたであろうタチアナさんをチェチェン兵士らは近所の空き別荘地に連れて行き、そこで強姦したうえ殺害、遺体はその家の庭先にちょこっと土をかけられ、埋められた。


餌にも口をつけず、帰らぬ飼い主を玄関先で待ち続ける

 なんでチェチェン兵だったことが分かったかというと、こいつらはこのあと、タチアナさんの隣家にも侵入、若夫婦と母親を連れ去り、また強姦しようとしたところ、上級部隊指揮官と思われるブリヤート人将校に止められたからである。夫人と母親は解放されたが、夫はどこかに連れ去られ、それっきり帰ってこず、のちに殺害されたと分かったという。


 この身の毛もよだつ惨劇を身近で見ていただけでなく、飼い主を守るべく吠えまくっていたのであろうが、力及ばず、リーニアはそれ以降、帰らぬタチアナさんを玄関先で待ち続けている。


 犬なのにもはや「吠えない」「動かない」。


 ただ死期をじっと待っているだけに見える。噂を聞きつけ、餌や水をおいていくご近所さんもいたが、餌に口をつけたようすがない。一月たち、やせこけ毛の艶もなくなり、この日キーウから同じ秋田犬を飼う夫婦が餌をもってやってきたが、それでも餌に口をつける様子はなかった。飼い主ともどもどれほどの恐怖を味わったのか想像に難くない。


 そして飼い主を助けられなかったわが身のふがいなさをうすうす感じている後悔から餌を口にできなかったのか、もはや知るすべもないが、このままやといずれリーニアは飼い主と楽しいひと時をすごしたここ玄関先の定位置で餓死することになる。リーニアがそれを望むのであれば、わしらがすべきことは静かに見守るしかない。それにしても犬という動物がこれほど人間に忠実だったとは、あらためて実感させていただいた。


プーチンやロシア兵による戦争犯罪を裁くことができない

 この悲劇を生んだ張本人、、プーチンがこの事実を認めることは決してない。またウクライナ側の自作自演と開きなおるは必至である。実行犯のチェチェン兵のごろつきどもも、今回はその蛮行の一部を止めたことになるブリヤート人も決して名乗りでることはないだろう。ロシア軍にそんなやつは存在しないことになってるからである。


 しかしこれが侵略されるということなのである。侵略したロシア軍を追い返したときがウクライナの勝利になるはずなのに、ウクライナも国際社会もプーチンやロシア兵による戦争犯罪を裁くことができないのである。


 カメラマンは無力である。犬一匹助けることができない。ただこの悲劇を知らせることしかできない。

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