【橋下徹研究①】
橋下徹と中国資本との長い歴史
月間HANADAプラス
山口敬之
「いまウクライナは18歳から60歳まで男性を国外退避させないっていうのは、これは違うと思いますよ」「どんどん国外退避させたらいいんですよ。だって西側諸国は武器しか供与しないんですから」。ウクライナへの暴言を繰り返す橋下徹氏。彼の真の狙いはいったいどこにあるのか。
「ありがたい」発言のオンパレード
ここで、もう一度、橋下氏のウクライナ発言を読み直してみる。
「祖国防衛で命を落とす、それしかないんだって状況にみんななってしまうと国外退避することが恥ずかしいことだ、やっちゃいけないことなんだ、売国奴なんだっていう批判を恐れてしまう」
「政治的妥結をすべき」
こうした「降伏論」に類する橋下氏の発言の文脈を整理すると、日本を侵略しようと考えている外国の指導者にとっては実に「ありがたい」発言のオンパレードだったことがわかる。
日本人はあまり自覚していないが、世界では「日本人を怒らせると怖い」「本気になった日本人は手がつけられない」という認識が広く浸透している。
記者として住んだイギリスやアメリカには多くの知人友人がいるが、「カミカゼ」「ハラキリ」という言葉を知らない者はひとりもいない。
国家のために死を覚悟して飛び立って行った特攻隊の精神は、「日本を侵略したら、カミカゼの母国の日本民族が徹底抗戦する」という侵略者側の恐怖心となり、目に見えない抑止力として現代日本を守っている。
裏を返せば、橋下氏の発言はそうした「国に殉じる」という日本精神を過去のものにしたい侵略者の意向に、ピッタリと寄り添っているとも言えるのである。
上海電力とカジノプロジェクト
大阪湾の人工島「咲洲」(さきしま)のコスモスクウェア地区では、上海電力株式会社によるメガソーラー事業が始まっている。
大阪市は、「おおさか環境ビジョン」等に基づき、平成32年度までに太陽光発電18万キロワットの導入を目標とした巨大メガソーラー事業を展開中だが、それを始めたのが2011年から大阪市長を務めた橋下氏だ。
そしてその主たる事業者が「上海電力日本株式会社」。資本関係から言って中国共産党に直結する「中国国営の企業グループ」なのだ。
中国のメガソーラー事業が進行している咲洲の北隣の「夢洲」(ゆめしま)では、カジノプロジェクトが進行中だ。
橋下氏の「降伏論」が大炎上していた3月29日、大阪市議会は大阪府と市が誘致を目指すカジノを含む統合型リゾート(IR)の区域整備計画を大阪維新の会と公明党市議団の賛成多数で可決した。
府議会は計画を24日に賛成多数で可決している。両議会での同意を得られたことで、府・市は申請期限の4月末までに国へ認定を申請する。
IRでは他に和歌山県と長崎県が誘致を目指しているが、議会の同意を得られたのは3地域で初だ。ただ市議会では自民党市議団が計画に反対。市が液状化防止など人工島・夢洲にある予定地の環境対策費に約788億円を負担することを問題視している。
大阪のカジノ構想は、アメリカのMGMリゾーツ・インターナショナルに関西企業など20社の共同グループからなる「大阪IR株式会社」が運営し、2029年秋~冬の開業を目指している。初期投資額は約1兆800億円、年間の売上高は約5200億円を見込む大阪府最大の巨大事業だ。
そして、カジノの運営などIR関連プロジェクトについても、中国系企業の様々な形での関与が取り沙汰されている。
このカジノ構想を2008年の大阪維新の会発足時から強力に推進してきたのが橋下氏本人なのだ。
「維新」の創立者であり、しかも3月末まで有償で法律顧問を務めていた橋下氏。
橋下氏は、テレビ番組のレギュラーコメンテーターとして、維新とは無関係との立場を強調する一方で、自分が関与した事業の環境整備や利益誘導に繋がるような発言をしていないか。
この疑惑は、橋下氏個人とテレビ局の倫理の問題に止まらない。
野党第一党に躍り出ようかという日本維新の会という国政政党がどのような権力構造のなかでどのように運営されているのかを解明する、重要な視点でもある。
現在、私の元には、維新の様々な関係者から多くの情報が寄せられている。この「Hanadaプラス」と、私のメールマガジンを中心に、橋下徹氏に関する取材成果を逐次公表していくつもりである。
「外交素人」に外交は語れない
これまで私個人としては、政治家ではない橋下氏の発言についてはあまり興味はなかった。しかしウクライナ情勢を巡る橋下氏の発言についてネット番組などでコメントを求められることが少なくないので、関連発言を全てチェックしてみたところ、いくつかの発見があった。
まず、橋下氏は国際情勢の基本知識が欠如していることがわかった。
例えばウクライナのNATO加盟問題について繰り返し発信しているが、NATOがどのような手順を踏んで意思決定するかや、紛争が進行中の国はNATOに加盟できないことなど、基本的な知識のないままに書いていると思われるツイートが少なくなかった。
しかし、国会議員になったことがない橋下氏は、職業として外交を担当したことがないのだから、知識が正確でないことは驚くには当たらない。
そんなことを言ったら、いまテレビ番組でウクライナ問題を語っている「コメンテーター」の多くが、外交経験も外交取材の経験もないタレントやお笑い芸人なのであって、橋下氏もそうした「外交素人」の1人なのだから、コメントが正確であるはずもない。
責められるべきは、人間の命がかかっている戦争を扱う番組で、「外交素人」に外交を語らせているテレビ局である。
「炎上商法」の本当の狙い
しかし、いま祖国が戦禍に見舞われている最中のウクライナ人に「降伏すべき」と言ったら、ウクライナ人のみならず日本人の視聴者からも強烈な反発を買うことくらいは、橋下氏は予測できたはずだ。
政治家時代の橋下氏と仕事をしたり会食したりした経験のある人たちに聞くと、ほとんど例外なく「礼儀正しく低姿勢な好人物」「頭の悪い人物ではない」という答えが返ってくる。
その一方でカメラの前で意見が異なる人物を血祭りにあげ、時には維新の所属議員ですら罵倒する際の橋下氏は、自身の制御の効かない凶暴な人物のようにも見える。
しかし橋下氏をよく知る関係者を取材すると、炎上発言をする時も橋下氏は、
・「有権者の注目を集める」という第一目標と、
・「自分の利益になる展開」という第二目標を明確に設定し、
・落とし所を意識して発言を変えていく
という戦略を持っているという。
そして「今回のウクライナ発言も炎上させるという第一目標は見事に達成した。それならば炎上という手段によって本当の目的である第二目標も達成している可能性が高い」と解説する関係者が少なくなかった。
要するに、橋下氏の過激発言は計算されたものであって、TPOに応じて自分を演じ分けているクレバーなタイプの人間だと見るべきなのかもしれない。
しかし、一連のウクライナ情勢をめぐる発言は、一見するとクレバーには見えない。
家族や友人が祖国防衛のために戦い、国民の1割に当たる400万人が国外に逃れているという悲惨な戦禍の犠牲者であるウクライナ人を目の前にして、聞きかじりの情報を元に上から目線で説教する行為自体、言論人として明らかに愚かといえよう。
維新とロシア大使館との不自然な関係
かつて維新に所属していた元議員はこう断言する。
「橋下徹は、自分が愚かだと見なされても達成したい、『別の目的』がある」
この人物が指摘したのが、維新とロシア大使館との不自然な関係だ。
2019年5月11日、維新の所属議員だった丸山穂高前衆議院議員が北方領土のビザなし交流日本側訪問団に同行した際、旧島民に対して、
「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」と質問した上で、
「戦争しないとどうしようもなくないですか」と発言したことが問題となった。
この時、日本維新の会の代表で大阪市長を務めている松井一郎氏は、
「党として一切そういう考えはない」「武力で領土を取り返す解決はない」とコメントした上で、丸山穂高議員を厳重注意。さらにその他のスキャンダルとも併せて丸山氏を除名とした。
ここまでは所属議員がスキャンダルを起こした際の政党のよくある対応だった。世間を驚かしたのが、問題発覚の6日後の5月17日、日本維新の会の片山虎之助共同代表と馬場伸幸幹事長が東京・港区のロシア大使館を訪れ、ミハイル・ガルージン大使に面会して直接謝罪したことだった。
国政政党の代表が除名した議員の発言について大使館にまで行って謝罪するのは、極めて異例の行為だ。
この1か月後にはロシアとの深い関係で知られる鈴木宗男衆議院議員が日本維新の会に入党したこともあり、永田町では、「維新とロシアの間には、世間では知られていない深い関係があるのではないか」と噂された。
意識しているのはロシアではなく中国か
しかし仮に維新とロシアの間に公表されていない深い関係があったとしても、橋下氏の「ウクライナ降伏論」はロシアを利するという意味では婉曲に過ぎる。
すでに始まってしまった戦争について、日本にいるウクライナ人に日本語で降伏を勧めたとしても、橋下氏の発言を聞いて降伏を選択するウクライナ国内の人は皆無と言っていいだろう。こんな発言ではロシアが喜ぶはずがないことは、橋下氏なら重々承知だろう。
そもそもロシアが日本を侵略する可能性は限りなくゼロに近いのだから、「侵略時に降伏すべき」と主張してもほとんど意味はない。
しかし、橋下氏が仮に中国を念頭に発言していたとすれば、俄然意味が深くなってくる。
中国は日本をターゲットとした核ミサイルを千基以上実践配備している国であり、尖閣などの沖縄海域で挑発行為を繰り返している。
昨年7月1日、習近平国家主席は中国共産党創建100周年記念式典で1時間にも及ぶ長演説でこう叫んだ。
「台湾問題を解決して祖国の完全統一を実現することは、中国共産党の不変の歴史的任務であり、中華民族全体の願いだ」
台湾有事となればわずか170キロメートルしか離れていない日本の無人島である尖閣諸島が無傷で済むはずがない。
中国の日本侵略は「あるかないか」ではなく「いつ」「どの位の規模か」が問われているのである。
前回この連載で【橋下徹研究】を始めたところ、大変大きな反響が寄せられた。「国政で存在感を増しているからこそ、維新と創立者である橋下徹の関係を明らかにして欲しい」という肯定的な反応が大半だったが、「橋下徹が維新の法律顧問をやっていたことも知らなかったのか」というお叱りの声も少しあった。
何度も繰り返すが、私は橋下徹氏についても、また日本維新の会・大阪維新の会についても、ごく一般的な知識しか持っていなかった。
だから、この連載では「あまり維新のことは知らない」という方と共に、基礎知識と最新情報を探求していきたい。
連載第2弾は、「上海電力日本株式会社」(以下「上海電力」)が大阪府のメガソーラー事業を請け負っている埠頭「咲洲(さきしま)」について掘り下げる。
咲洲には「大阪府咲洲庁舎」という、日本第4位の256mを誇る超高層ビルがある。三井住友銀行や大阪市を中心とする第三セクターによって1995年に完成されたこの超高層ビルは、開業直後から赤字を垂れ流していた。
2003年には運営会社だったWTC(ワールドトレードセンター)が事実上倒産し、大阪地方裁判所に特別調停を申請した。
ところが橋下徹氏が2008年に大阪府知事になると「咲洲地区は大阪の宝石箱」などと言って知事主導で咲洲開発に邁進。そのシンボルがWTCビルの買収プロジェクトだった。
元々このビルは耐震強度に問題があるとされ、全壊の危険性も指摘されていた。だから大阪府議会で府のビル取得に強い反対意見が出され、結局、府機能の移転は府議会で否決された。
それでもなお、橋下知事はビル取得に固執。2009年10月には「府機能は移転しないがビルは買収する」という極めて異例の結論になった。
しかし、その後大阪府は、議会や府職員の反対にもかかわらず、府の行政機能の多くを買収したビルに順次移転し、ビルの名前も「大阪府咲洲庁舎」となった。
[産経新聞2016年1月5日]
「いつもガラガラ大阪府『咲洲庁舎』
初のテナント募集応募ゼロ!」
一般テナントが次々と撤退したり、2019年に入居していた「さきしまコスモタワーホテル」が維持費数億円を滞納したとして大阪府から契約解除されるなど、「いわく付き」の高層ビルとなっている。
当初の発電請負は日本企業だった
その「咲洲庁舎」からほど近い、埠頭の北西端の広大な土地で、巨大メガソーラー事業が展開されている。
大阪府のホームページによると、発電量は2.4メガワットで、事業者は「合同会社咲洲メガソーラー大阪ひかりの泉プロジェクト」となっている。
確かに、2012年にはこの土地でメガソーラーを実施する事業者として、2つの会社が合同でプレスリリースを発表している。「伸和工業」と「日光エナジー開発」だ。
このプレスリリースでは、この2社が咲洲埠頭コスモスクウェア地区北西端の土地を月額55万円で借り受け、1年後にメガソーラーによる発電事業を開始することになっていた。
ところが、発電事業は予定通りには始まらず、1年半後の2014年5月にようやく電力供給が始まった。そして、蓋を開けてみたらこの施設を実質的に建設・運営しているのは「上海電力」であることが明らかになった。
会社のホームページの「発電所一覧」のトップに咲洲メガソーラーが挙げられており、こんな説明文がついている。
「大阪市南港咲洲メガソーラー発電所の定格出力は 2.4 MWで、上海電力日本株式会社が日本で初めて建設したメガソーラー発電所です。また、大阪市で稼動した初のメガソーラー発電所になります。
当発電所は大阪湾に面して、工業港に近く、大阪の国際貿易の窓口である地域であり、地形が平坦で、日差しが豊かな、メガソーラー発電所には理想的な立地です。
当発電所は上海電力日本株式会社と日本伸和工業株式会社が共同で投資したプロジェクトで、 2014 年 3月 16 日に建設開始、2014 年 5 月 16 日に稼動しました」
「上海電力」は、上海証券取引所に上場している「上海電力股份有限公司」という中国の会社の100%子会社だ。
「上海電力股份有限公司」の株主構成は以下の通り。
筆頭株主の「中国電力投資集団」が46.34%という圧倒的なシェアを持っており、「中国電力国際発展」13.88%と「中国長江電力」の9.88%を合わせると70.1%になる。
「中国電力投資集団」は中国共産党の支配する5大電力組織の中核だ。「中国電力国際発展」「中国長江電力」は親会社が中国政府(国務院)の管理下にある国営企業だから、「上海電力」も中国政府の管理下にある中国の準国営企業ということになる。
「上海電力」のロゴマーク左の「国家電投」は「中国国家電力投資集団」の略だから、中国政府の実質的国営企業であることを隠していない。
メガソーラー事業は設置・運営コストを差し引いてもおおむね10%程度の利益が見込め、世界的な低金利の中では高い収益が期待できる。大阪府は咲洲のメガソーラー事業で、毎月巨額の利益を「上海電力」と中国政府と中国共産党に献上していることになる。
日本にはメガソーラーの設置・運営が出来る会社がたくさんあるのに、大阪府はなぜあえて咲洲のメガソーラーを中国の実質的国益企業に運営させているのだろうか。
すべての事象が橋下時代に起きている
橋下徹氏は大阪府知事と大阪市長を以下の期間務めた。
・知事 2008年2月6日~2011年10月31日
・市長 2011年12月19日~2015年12月18日
そして市長時代の府知事は盟友の松井一郎現大阪市長。橋下徹氏は実質7年半にわたって大阪府の行政と政策を牛耳ってきた。
橋下氏は知事として市長として、上海市との関係強化に取り組んできた。例えば上海で万博が実施されていた2010年7月、大阪府と大阪市は共同でこんなプレスリリースを出している。
「大阪府と大阪市は7月28日を『なにわの日』として、「大阪-上海友好盆踊り大会」を目玉イベントとする『大阪のスペシャルデー』を上海万博会場で開催すると発表した」
橋下氏は、この時期上海に滞在して、上海国際会議センターで開かれた『大阪-上海友好交流の夕べ』など複数のイベントに出席する傍らで、上海市当局の幹部と会合を重ねた。
さらに大阪府所有の帆船「あこがれ」に大阪府民と上海市民を総勢500人を乗せた記念航海も発表している。
「大阪府と上海市は1980年に友好都市提携し、今年で30周年という節目の年になる。大阪市も1974年に上海市と友好都市として提携した」
この2年後、咲洲のメガソーラー事業が本格的にスタートした。そして当初は日本企業による事業を標榜していた。ところが1年半後、事業主体がいつの間にか「上海電力」という中国の準国営企業にすり替わっていた。
事業主体の変更について大阪府の過去の報道発表を探してみたが、該当するものは見つからなかった。府民の生活に直結する発電事業を中国企業に任せるのであれば、その意図や安全性の担保などについて、府としての見解を発表するべきだったのではないだろうか。
はっきりしているのは、メガソーラービジネスの中国企業への売り渡しの決定から実施に至る、すべてのプロセスが橋下氏と大阪維新の会が大阪府政を牛耳っていた時期に行われたという事実である。
「降伏論」と中国ビジネス
ウクライナ戦争に関連して橋下氏は「外国が攻めてきたら降伏すべきだ」と繰り返し発言した。
台湾・尖閣を自国の領土だと主張する中国と中国共産党は、あらゆる手段を使っていずれ台湾・尖閣を取りに来るだろう。
ロシア軍の侵攻はウクライナ人の必死の抵抗で当初の見込みよりも停滞し膠着状態に陥っている。習近平が台湾と尖閣を侵略する場合にも、最大の阻害要因となるのが日本人の抵抗だ。
そんな時、日本の著名人が「侵略されたら抵抗せず、逃げるか降伏するべきだ」と言ってくれたら、侵略する側にとっては極めて「ありがたい」発言に違いない。
大阪府の巨大メガソーラー事業が中国政府と中国共産党が管理する中国の会社に売り飛ばされたという事実。
そして交渉から契約までの最も重要な期間、橋下徹氏が大阪府政を知事として牛耳っていたという事実。
こうした経緯を検証すればするほど、
「橋下徹氏の『降伏論」』と大阪府の中国ビジネスは無関係だ」という言い訳は成り立たないように思えてくる。
橋下氏がもし、中国企業の経営者と、その奥にいる中国共産党幹部が喜ぶような発言を意図的に繰り返しているのであれば、それはもはや単なるトンデモ発言ではない。特定の意図を持って国民を誘導しようという「特異な」発信という事になる。
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