なぜ進まぬ『ロシア化』プーチン氏に苛立ち…「どういうわけか昨日からウクライナ語チャンネルが見られるように…」

 なぜ進まぬ『ロシア化』プーチン氏に苛立ち…「どういうわけか昨日からウクライナ語チャンネルが見られるように…」

5/1(日) 

TBS


ロシアが何らかの"勝利"宣言したいはずの対ドイツ戦勝記念日(5月9日)が近づいている。

しかし思うような戦果が上がっていない。一方アメリカはウクライナに対し新たに330億ドル(約4.3兆円)の追加支援を示した。


こうした現状の中、プーチン大統領の発言は日々過激になっている。

「我々にとって受け入れがたい戦略的脅威を作り出そうとするなら反撃は電光石火に行われると認識すべきだ――我々は誰も持っていないような反撃の手段をすべて持っている――必要とあれば使う――そのための決定がすべてなされている」


4月27日、プーチン氏が議会関係者の前で語ったこの発言は、核兵器使用を辞さない構えであることを改めて明言したに他ならない。こうした発言から何が読み取れるのか、専門家に聞いた。


■「ロシアが追い詰められている」

防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長

「苛立ちとともに焦りを感じる。欧米諸国に軍事支援が続き戦争が長期化する中、ロシアが追い詰められている」


角茂樹 元ウクライナ駐日大使

「最初のシナリオは大失敗。今、東部に移ったがこれも巧くいっていない。プーチンにしてみれば全て西側がゼレンスキー政権を助けているからだ、と苛立っている」


プーチン大統領を苛立たせる侵攻の行き詰まりばかりではない。


キーワードは『ロシア化』だ。

 

■「第1段階は軍事的に制圧。第2段階は政治的にロシア化していく」

プーチンの目指す『ロシア化』の象徴として番組はある州に注目した。

ウクライナ南部に位置する『へルソン州』。黒海に面しクリミアにつながる土地だ。このへルソン、ロシアにとって重要な土地だった。


角茂樹 元ウクライナ駐日大使

「実はクリミアというのは水が自給できない。山がちでね…。クリミアの人たちは、へルソンからの水路に頼っている。(中略)これがあるからロシアはヘルソンを確保したい。」


このヘルソンで今週大きな動きがあった。市民を取材した…。


ヘルソン女性市民

「市内のすべての政府庁舎にロシア国旗が掲げられています。市内の記念碑でソ連旗が掲げあれている場所もあります。ロシア軍が来てからすべてが変わった…」


4月25日には市長が解任され、翌日にはヘルソンの独立を問う『住民投票』が計画された。

独立を認めないゼレンスキー大統領は、ロシア軍に個人情報の開示を求められてもそれは住民投票を捏造する目的だから応じないよう市民に呼び掛けた。しかし・・・。


ヘルソン女性市民

「ロシア軍が支援物資を持ってきた時、パスポートを提示した人にだけ支給しました。ロシア兵は、そこから個人情報をメモしていました。ロシア軍はやりたい放題です。私はロシアによる侵略を支持していないので住民投票も支持しません。これは違法です」


結局、市民の強い反発によって住民投票は見送られたが、対独戦勝記念日に向けて再び計画されるとも伝えられている。


ロシア国旗が掲げられ、親ロ派の首長が就任し、独立のための住民投票・・・。これがプーチン氏の望む『ロシア化』の歩みだ。


防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長

「(ロシアの侵略は)2つの段階があって、第1段階は軍事的に制圧。第2段階は政治的にロシア化していく(中略)クリミアでもそうだったようにまずは、住民投票で独立の是非を問う。不正も含めた見せかけの投票かもしれないが、これで民意が得られたとして独立を宣言もしくは編入、これが政治的意図としてある。私が注目しているのはシロヴィキを束ねるドンのようなパトルシェフ安全保障会議書記が、ロシア新聞のインタビューで『ウクライナが複数の国家に分裂する可能性がある』と言っていること・・・」


つまり制圧した地域がそれぞれ独立し、親ロシアの国になっていくという未来図か。


この『ロシア化』、2014年、クリミアでは巧くいった。住民投票では同じ人が何度も投票したり、あらかじめ賛成と書かれた投票用紙が使われたり、疑惑はあったものの結果、賛成97%でクリミアはロシアに編入されたのだ。


ところが、ヘルソンでは同じようには進まないようだ・・・。

 

■「どういうわけか昨日からウクライナ語のチャンネルが1つだけ見られるようになりました」

ヘルソンではロシア軍侵攻後、ウクライナ国内の放送がストップし、ロシア国内の放送しか見られなくなっていた。それが・・・


ヘルソン女性市民

「これまでロシア語のチャンネルしか映りませんでしたが、どういうわけか昨日からウクライナ語のチャンネルが1つだけ見られるようになりました」


視聴可能になったのは、地元ヘルソンの独立系テレビ局BTBプラスで、戦争の状況やウクライナ軍とロシア軍のヘリの見分け方など、ロシア寄りではない情報も提供している。


これはヘルソンに侵攻したロシア軍がメディアを完全に掌握出来てはいないことを意味する。

今回、『ロシア化』が思うように進まないのには、ある大きな存在があると角元大使は言う・・・。


 


■ウクライナのオリガルヒを敵に回したのが誤算だ

ロシア側が制圧したとしているマリウポリでウクライナ側の拠点となっている製鉄所がある。

連日ニュース映像でも映し出される攻撃にさらされた東京ドーム235個分という広大な製鉄所。この所有者こそウクライナナンバー1のオリガルヒ、リトナ・アフメトフ氏。石炭・鉄鋼・メディア・電力を掌握しサッカーチームを所有し、学校、教会、病院を運営する大富豪だ。


ウクライナの地方都市は、アフメトフ氏をはじめとしたオリガルヒが君臨し、政府よりも権力、財力を有し、何より市民から尊敬され支持されている。


角茂樹 元ウクライナ駐日大使

「(ロシア軍が)侵攻した東部で(アフメトフ氏所有の)石炭の施設など接収したことがある。他の人を持ってきて経営しようとしたんですが従業員がついていかない。働いている人たちにとってアフメトフさんが、学校を作り病院を作り、年金まで払ってくれる。ウクライナ政府の年金ものすごく少ないですから。この人についていくことで成り立ってますから。(中略)子供のころから面倒を見てもらっているからよそ者が来てやると言ったって『はいそうですか』とはならない。形の上でロシアが住民投票やっても巧くはいかないと私は思う」


プーチン氏は、ウクライナ・オリガルヒを親ロ派にするという戦略は考えなかったのだろうか。


マリウポリの製鉄所に代表されるようにロシア軍は、ウクライナの様々な施設を無差別に攻撃してしまった。この戦争でウクライナ・オリガルヒはかなりの資産を失っている。


パトリック・ハーラン氏

「ワシントンポストが報じてますけど、フォーブス誌が『世界の億万長者ランキング』発表してます。その中にウクライナのオリガルヒの資産も載ってます。これが戦争前と現在で激減してます。アフメトフさんも載ってますが、資産が3分の1くらいに減ってるんですよ。だからオリガルヒはこぞって戦争反対なんです」


今回は一丸となって反ロシアのオリガルヒもクリミア併合の際は対応が様々だったと角元大使は言う。


角茂樹 元ウクライナ駐日大使

「2014年の時にはウクライナは貿易の25%をロシアとしていたんです。オリガルヒの中にもロシアと交易していた人がたくさんいたんです。だからロシアの侵攻への対応も色々な意見があったわけです。でも今、ウクライナのロシアとの貿易はわずか7%ですからね。ロシアと貿易してきたオリガルヒも取引相手を西側に変えてきていたんですね。従ってもうロシアを頼る必要がないんです」


プーチン氏はウクライナ・オリガルヒの存在を甘く見過ぎたのか、はたまたもとより眼中になかったのか・・・。『ロシア化』の道は遠そうだ。


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