プーチン大統領「サハリン2」主体をロシア企業へ 大統領令署名
2022年7月1日 19時58分
配信 NHK
日本の大手商社も出資してロシア極東で進められている石油・天然ガスの開発プロジェクト「サハリン2」についてロシアのプーチン大統領は、事業主体をロシア企業に変更するよう命じる大統領令に署名しました。
ウクライナ侵攻を続けるロシアに対して制裁を強める日本側に揺さぶりをかけるねらいもあるとみられます。
石油・天然ガスの開発プロジェクト「サハリン2」についてロシアのプーチン大統領は30日、事業主体を、政府が新たに設立するロシア企業に変更し、その資産を新会社に無償で譲渡することを命じる大統領令に署名しました。
「サハリン2」の事業主体の「サハリンエナジー」社には、
▽ロシア最大の政府系ガス会社、ガスプロムが50%、
▽イギリスの大手石油会社シェルが27.5%、
日本から
▽三井物産が12.5%、
▽三菱商事が10%を出資していますが、
シェルは、ことし2月に事業からの撤退を発表しています。
大統領令では開発に関する契約の義務違反があり、ロシアの国益や経済安全保障に対する脅威が生じたと主張し、ガスプロムを除く株主は1か月以内に出資分に応じた株式の譲渡に同意するかどうかをロシア政府に通知する必要があるとしています。
大統領令は冒頭で「ロシアに対する制限的措置を科すことを目的とした、非友好的かつ国際法に反する行為に関連し、ロシアの国益を守る」としていて、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対して、欧米とともに制裁を強める日本側に揺さぶりをかけるねらいもあるとみられます。
ロシアの有力紙「コメルサント」は1日付けの電子版の記事で「プロジェクトに参画する外国企業に踏み絵を迫るものだ」と伝えていて、今後日本の大手商社の出資にどのような影響が出るのかは、不透明な状況です。
岸田首相「すぐにLNGが止まるものではない」
これについて岸田総理大臣は日本のLNG=液化天然ガスの輸入がすぐに止まるものではないと述べたうえで、出資企業とも連携して対応していく考えを示しました。
岸田総理大臣は訪問先の那覇市で記者団に「『サハリン2』の事業について何らかの措置が行われる可能性があるが、大統領令によって、すぐにLNGが止まるものではないと考えている」と述べ、日本のLNGの輸入に直ちに影響するものではないとの見通しを示しました。
そのうえで「大統領令に基づき契約内容をめぐりどのようなことを求められるか注視しなければならないし、事業者とも意思疎通を図って対応を考えていかなければならない」と述べ、出資企業とも連携して対応していく考えを示しました。
萩生田経産相「今回の大統領令 いわゆる接収とは異なる」
また萩生田経済産業大臣は日本企業の権益を強制的に取り上げるものではないという認識を示したうえで、企業や関係省庁と連携して対応する考えを示しました。
萩生田大臣は記者団の取材に対し「今回の大統領令によって直ちにサハリン2からのLNGの輸入ができなくなるわけではないと思っているが、不測の事態に備え、万全の対策をとる必要がある」と述べ、日本企業の権益の扱いやLNGの輸入への影響を精査する考えを示しました。
そのうえで萩生田大臣は「今回の大統領令は、いわゆる接収とは異なる。日本の電力ガスの安定供給を確保する観点からしっかり検討していく」と述べ、今回の大統領令は新たに設立されるロシア法人が日本企業の権益を強制的に取り上げる「接収」ではないとして企業や関係省庁と連携して対応する考えを示しました。
木原官房副長官「権益の扱いやLNG輸入への影響は精査中」
木原官房副長官は、記者会見で「わが国の資源に関する権益が損なわれるようなことはあってはならないが、署名による日本企業の権益の扱いや日本へのLNG=液化天然ガスの輸入への影響は精査中だ。ロシア側の意図や背景、各社がどう対応していくかについても精査中で、今後の対応を答えられる段階にはない」と述べました。
プロジェクトに出資 三井物産と三菱商事は
プロジェクトに出資する三菱商事は、「大統領令の公布は認識しており、事業主体の「サハリンエナジー」社、パートナー、日本政府と連携し対応を協議している。足元での生産は継続している」とするコメントを出しました。
また、三井物産は「大統領令の内容や影響を確認、分析している。日本政府や事業パートナーを含むステークホルダーとも今後の方針に関して協議し、適切に対応していく」とコメントしています。
日商 三村会頭「信じられない」
「サハリン2」をめぐり、ロシアのプーチン大統領が事業主体をロシア企業に変更するよう命じる大統領令に署名したことについて日本商工会議所の三村会頭は、1日午後、記者団に対し「信じられない。契約によって投資したものを何の理由もなく国有化するようなことをもし本当にやるのであれば、将来、ロシアに投資をしようという民間企業はほとんどいなくなってしまう。これがどういうことになるか、ちょっと予想がつかない」と述べました。
そのうえで、政府や大手商社が取るべき対応については「実情が分からないところがある。いろいろ難しい点があるので、冷静に状況を見守ったほうがよいと思う」などとして、ロシア側のねらいなどを見極めたうえで、慎重に対処すべきとの考えを示しました。
今後の焦点は
ロシア極東のサハリンで進めてきた「サハリン2」は、総事業費が2兆円を超える石油と天然ガスの大型開発プロジェクトです。
事業主体の「サハリンエナジー」社には、日本から三井物産が12.5%、三菱商事が10%を出資しています。
今後、焦点となるのは日本の大手商社の出資やLNG=液化天然ガスの輸入への影響です。
「サハリン2」で生産されるLNGのおよそ6割は日本の電力会社とガス会社が長期契約で購入しています。
これは日本が輸入するLNG全体の1割近くを占めています。
今回の大統領令では、日本の商社などが新会社に出資して権益を維持するには1か月以内に、ロシア政府の条件に同意するかどうかを通知する必要があるとしています。
政府関係者は、仮に新たに設立されるロシア企業から大手商社が締め出されLNGの輸入に支障が出れば電力の需給がさらにひっ迫し特に冬の電力供給に深刻な影響を及ぼすおそれがあると指摘しています。
政府と大手商社は、電力やガスの安定供給に不可欠だとして開発プロジェクトから撤退しない方針を示していますが、大統領令を受けて今後どのような対応をとるのか注目されます。
専門家“日本に揺さぶりか”
日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員は「電力需給がひっ迫し、電力の安定供給が大きな課題になっている日本の状況を、ロシア側も当然ながら把握していると考えたほうがいい。そうした状況に対して、揺さぶりをかけてきたのではないか」と話しています。
そのうえで、「現時点では、権益や日本に輸出する権利を引き上げる『接収』までやろうとしているかは分からない。ロシア側がどのような態度を示してくるか、それに対して日本が対応していけるかは今後の状況次第だ」と話しています。
ロシア 日本に対し強硬的な発言
ウクライナへの軍事侵攻をうけて欧米と歩調を合わせる形で、日本もロシアに対する制裁を科すなか、ロシア政府はことし3月、ロシアへの制裁措置を行う「非友好的な国と地域」のリストを公表し、この中には日本も含まれ、強硬的な姿勢を示してきました。
こうした中「サハリン2」をめぐっては、ロシア議会下院でボロジン下院議長がことし5月25日、「サハリン2」に出資してきた日本やイギリスなどを名指しして「制裁を科しながら、金もうけをしている。ガスプロムに委ねるべきだ。それがロシアの国家にとっても直接の資産になる」と発言し、ロシア最大の政府系ガス会社、ガスプロムに権利を委ねるべきだと主張していました。
ボロジン議長は先月15日にも「日本は、多大な利益を得ながら、われわれに対して、何百もの制裁を行った。日本が撤退するか、ロシアに対する態度を改めるかどちらかを選択すべきだ」と述べ、制裁を科す日本に対して「サハリン2」の事業への参入を見直すべきだと強硬的な発言をしていました。
ロシア報道官 “国有化ではない”
ロシアのプーチン大統領が、石油・天然ガスの開発プロジェクト「サハリン2」の事業主体をロシア企業に変更するよう命じる大統領令に署名したことを受けて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は1日、出資企業への影響について、国有化ではないという認識を示したうえで「それぞれの案件は、個別に検討される。詳細は政府によって決定される」と述べました。
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